入札から一週間。
ついに運命の「開札日」がやってきた。
自分では確認する術がなかったが、
依頼していたコンサルタントから一本の電話が入る。

「澤井さん、おめでとうございます!
落札ですよ!」
受話器の向こうの声は、いつになく弾んでいた。
しかし、その後の言葉に、私は喜びよりも先に
「違和感」を覚えることになる。
1. 営業マンの直感
「澤井さんは本当についている!
実はね、隣の古い家も実家だった
みたいなんです。
あそこも一緒に買い取ってしまいましょう。
二区画にして売れば、儲けは跳ね上がりますよ!」
普段は冷静でテンションの低い男が、
この時ばかりは演技がかった口調で
まくしたてる。
長年、営業の最前線に身を置いてきた
私のアンテナが、激しく警告を発した。
「……この声、人を騙そうとしている時のトーンだ。」
2. 現実という名の「ジャングル」
彼の言う「宝の山」を、私は下見で
すでに見ていた。
そこにあるのは、軒先が剥がれ落ち、
中にはゴミのような荷物が
満載されたボロ家だ。

庭はジャングル状態で、放置された
軽バンの中まで荷物が詰め込まれている。
そもそも、このあたりの土地は
更地にしても100万円程度。
解体費用を考えれば、二区画にして
売るなんて計算が成り立つはずがない。
「自己資金はもう使い果たしましたよ」
私がそう釘を刺すと、彼はさらに食い下がった。
「仲間を集めて共同で買いましょう。
私も出資しますから!」
自分が身銭を切ると言われれば、
一瞬「本当なのか?」と20%くらいは
信じてしまいそうになる。
だが、彼には前科(?)があった。
以前、使い勝手の悪いリフォーム済みの
投資物件を「お宝です」と勧めてきたことが
あったのだ。
「この男、コンサルという名目で近づいて、
売りづらい物件を押し付けるのが
本業なんじゃないか?」
3. サラリーマン、350万円の覚悟
結局、隣家を買い取る話はその後、
何事もなかったかのように消えていった。
やはり、その場限りの甘い誘い文句だったのだ。
不信感は消えない。
しかし、勝負はすでに始まっている。
私は残りの代金を一括で支払った。
今の自分にとっては、血の滲むような350万円。
普通のサラリーマンが、一度も中を
見たことがない「闇鍋」に、
この大金を一気に投じるのだ。
「本当に、これで良かったのか?」
通帳の数字が消えた後の、あの独特の静寂。
後悔と期待が入り混じる中、私はついに、
あの八街のパナホームの「鍵」を手に入れる。
(第4話へ続く:いよいよ潜入。扉の向こうで待っていたのは……)


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