第6話:1万円のチェーンソーと、銀杏のボスが倒れた日

八街再生ストーリー

「木なんて、なんとかなるだろう」 それが、八街の洗礼を受ける前の私の正直な感想だった。

まずは肩慣らしに、敷地内に生い茂る2メートルほどの雑木10本から着手することにした。

YouTubeで得た知識によれば、木は地上と同じ形だけ地下に根を張っているという。

近所の植木屋に聞くと「一本3,000円で抜いてやるよ」と言われたが、私はケチった。

3万円を浮かせたいのもあったが、何より自分の手で「再生」の第一歩を刻みたかったのだ。

だが、やり始めてすぐに悟った。

スコップを垂直に入れ、根を一本ずつノコギリで切り、最後は全身の力で蹴り倒す。

10本を終える頃には、3万円を払わなかった自分を呪うほど疲弊していた。

一番下の小さなのこぎりが立ち木の伐採で活躍したもの。土の中の根を切るので作業後はボロボロで使えないと聞いていましたが、ちゃっかり今でも使えます。

そして、いよいよ目の前にはラスボス、高さ7メートルの巨大な銀杏(イチョウ)がそびえ立っていた。

その日は疲れ切っていた。翌日作業をすることに決めた。

「有線式」の意地と、おじさんの乱入

私はホームセンターで1万円の電動チェーンソーを買った。

こだわり?の有線式チェーンソー。これと10メートルの延長コードで大抵は行けます。

プロが使うエンジン式でも、最近流行りの高価なバッテリー式でもない。

コンセントから100ボルトを直接引き込む「有線式」だ。

プロが使う電動工具は大体バッテリー式で高電圧のもの。

非常に高価で基本工具のドライバーでさえ5万程度する。

1から2万円程度で買えるものは電圧が低く、長い木ねじなどは回せない。

それに比較して有線のドライバーは7千円程度のものでバッテリー式の5万円の匹敵する・・・と思う。

「100ボルトの電源は偉大なんだよ。パワーが違う」 そんな理屈で自分を納得させ、YouTubeで学んだ「受け口」と「追い口」のイメージを頭に叩き込み、いざ木の前に立ち、ジェイソンばりに銀杏の根元にチェーンソーを入れようとした。

その時だ。

「ちょっと待った!まさかそのまま切るつもりじゃないだろうね」声の主は、向かいのあのおじさんだった。

今回の銀杏伐採の依頼主であり、元電機メーカーのサラリーマン。

彼は私のブザマな構えを見ていられなかったらしい。

「木は思った方向に倒れないんだ。

倒したい方向の枝を残して、反対を先に切らなきゃダメだ」おじさんは自宅から立派な伸縮式の脚立を担ぎ出してきた。

高所恐怖症で足がすくむ私に代わり、身軽におじさんが木に登る。

「ちょっと貸してみ」 私のチェーンソーを奪い取ると、おじさんはスパスパと枝を落としていく。

高度経済成長を支えたサラリーマンの底力。

私は下から見上げていることしかできなかった。

怪しい援軍と、スローモーションの恐怖

幹だけになった銀杏に、ついに「追い口」を入れる。

誘導のために20メートルのロープを結び、私が木の上、おじさんが地上でロープをつかんだその時、さらにもう一人の「戦力」が現れた。

近所に住む、いつも酒を食らってフラフラしている目つきの怪しいおじさんだ。

普段は避けていたのだが、元職人の血が騒いだのか、おもむろにロープを掴み出した。

私、お向かいのおじさん、そして酔っ払いの怪しいおじさん。

奇妙な三人衆でロープを引く。私はいやな予感がした。

酔っ払いのおじさんは力加減ができないように見えた。

「メキ、メキメキ……!」銀杏が悲鳴を上げた。

その瞬間、「あ、手が挟まる!」 。

とっさに手を引いたが、時すでに遅し。

元企業戦士おじさんの言葉「木は思った方向に倒れない・・・」が頭をよぎった。
木は予定を大きく外れ、あろうことか私のパナホームに向かって倒れていったのだ。
「ああ、何十万飛ぶんだ……」それ以前に俺の手が挟まってなくなるっ!
バキィッ! という破壊音が響き、何かが宙を舞う。
パナホーム直撃。
それを見た怪しい酔っ払いおじさんは、何も言わずに逃げるように去っていった。
人間というのは、切羽詰まると本能が出るものなんだろうか。
近所だし、面も割れてるのに、今さら逃げたところで何の意味もないのだが、その人はスタコラと逃げていった。

おいおいおい・・・私はロープを引っ張っていた時の酔っ払いおじさんの笑顔を忘れない。

笑顔でロープを引っ張るおじさん。楽しくなってる(イメージ)

ラスボスの最期

血の気が引く思いではしごから降り、駆け寄ると、幸いにも壊れたのは雨どいだけだった。
一部雨戸の金属部分がへこんでいるものの、奇跡的に外壁や窓は無事だったのだ。
「……よかった」 。
九死に一生を得た私は、残りの工程を進めた。
第2段階、そして最後の根元。

直径50センチを超える最下部。

チェーンソーを入れ、最後の一太刀を浴びせる。
巨大な質量がゆっくりと傾き、視界がスローモーションになる。
「ドドドドォォン!」腹の底に響くような地響き。
水分を含んだ巨木の重みが、地面を震わせた。
あんなに立派に聳え立っていたラスボスが、ついに横たわったのだ。

私は少し罪悪感があった。 木とはいえ、生命体には変わりがない。

その命を絶ってしまったという罪悪感を

今さらのように感じていた。季節はおりしも春先、倒れた銀杏に

はほのかに新芽が芽吹いていた。

ふと見ると、お向かいのおじさんが、頼んでもいないのに切り株に「木を枯らす薬剤」を塗り込んでいた。

「もう二度と芽吹かないようにしてやる」 。

私は長年の怨念が消え、清々しい達成感を漂わすおじさんの背中を見つめていた。

第7話へ続く

ビック・リボーン・エステートのホームページへhttps://www.bicreborn.com/

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