【八街再生ストーリー 第1話】 350万円の落札。それは地獄への招待状だった

八街再生ストーリー

「おめでとうございます、落札です!」

コンサルタントの声が電話越しに弾んだ。

初めての競売入札。

予算の都合で選んだ、千葉県八街市のパナホーム。

平成4年築、延床面積130平米。

軽量鉄骨の立派な家だ。

売り出し価格約250万円に対し、私の入札額は350万円。

「初入札でいきなり落札なんて、ありえないですよ!」プロであるはずのコンサルタントも

驚くほどのビギナーズラック。

当時、私は大手ハウスメーカーである三井ホームに勤務していました。

中途採用で入社して以来、さまざまな思いを抱えながら働いてきましたが、その一方で「いつかは独立したい」という気持ちを、長い間心の中に持ち続けていました。

実際、独立については10年近く悩み続けていたと思います。

そんな中、父が亡くなり、ささやかな遺産を遺してくれました。

その出来事をきっかけに、「今なら独立できるかもしれない」と、本格的に一歩を踏み出す

決意が固まりました。

もっとも、私は長年営業の仕事に携わってきたため、住宅や不動産の提案には自信があっても、実際の工事やリフォームの現場については、まだ十分に経験があるとは言えませんでした。

独立して自分で商売をしていく以上、その部分を自分自身で理解しておく必要があると感じていました。

また、当時の私は、今のような仲介業務を中心に考えていたわけではなく、中古住宅を仕入れ、自ら手を加えて価値を高め、再販売する事業を最初から志していました。

そのため、まずは実験的に一棟の住宅を実際に購入し、自分の手でリフォームを行ってみようと考えたのです。

そうして取り組んだのが、八街にあった古いパナホームでした。

この物件は、私にとって単なる中古住宅ではなく、独立後の仕事の原点となる、大切な実践の場だったのです。

当時の私は、ハウスメーカー出身としての自負もあり、「このパナホームならば大きな不具合は

ないだろうし、直して売れば、良い値段で売れるに違いない・・・」と確信していた。

実は、入札前に一度、現地へ下見に訪れている。

そこで私は、忘れられない光景を目にしていた。

誰もいないはずのその家で、元の所有者であろう母娘が、静かに荷物を運び出していたのだ。

もちろん、私がその家を狙っていることなど彼女たちは知らないし、私の存在にも気づいていなかっただろう。

淡々と荷物をまとめる二人の背中を見て、私は何とも言えない感情に襲われた。

競売という仕組みの裏にある、生活の破綻と、住み慣れた家を追われる者の悲しみ。

不動産という「資産」を動かすことの重みが、ずしりと胸に響いた瞬間だった。

敷地には、2階の屋根を越えるほど巨大な銀杏の木がそびえ立っていた。

その時はまだ「立派な木があるな」程度にしか思っておらず、後にこのボスと死闘を繰り広げることになるとは夢にも思っていなかった。

「この家を、もう一度輝かせよう」そんな淡い期待とともに落札した物件。

しかし、鍵を手に入れ、いざ「自分の持ち物」として中に入った瞬間、私は隠されていた過酷な

現実に直面することになる。

(第2話へ続く。)

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