今回からはいよいよ、この再生プロジェクトのメインイベント、「外装塗装」の話をしましょう。
この建物は平成4年(1992年)築。ちょうどバブルが弾けて、世の中の景気が一気に冷え込み始めた時期です。その影響なのか、当時はなぜか「グレー」の外壁が流行っていました。
最近もグレーの車が流行っていますが、私は正直、グレーがあまり好きではありません。どこか活気がなくて、景気が悪そうに見えてしまうからです。ましてや、長年手入れされず放置されたグレーの外壁は、くすんで水を含み、爪で引っかくとボロボロと崩れるような、まさに「貧乏くさい」状態でした。
「この家を、もう一度輝かせたい」 その一心で、私はペンキを手に取りました。
💰 ハウスメーカーの「常識」を疑う。足場代の衝撃
まずは足場です。三井ホーム時代、お客様には「足場だけで40万〜50万はかかりますよ」と説明していました。それがハウスメーカーの相場だからです。
しかし、自分で足場屋さんに連絡して見積もりを取ってみて驚きました。 なんと、12万円。
「中間マージンって、どんだけ乗ってるんだよ……」と、業界の裏側に改めて苦笑いしてしまいました。足場の設置はわずか3時間。一気に「工事現場」らしくなった我が家を見て、子供の頃に「スパイダーマンごっこ」をしていた血が騒ぎ、思わず足場をスイスイ登って屋根まで行ってしまいました。50歳を過ぎても、男はこういう時にテンションが上がってしまうものです。
🛡️ 塗装の命は「マスキング」にあり
塗装の準備として、ホームセンターで「マスカー」(養生テープとビニールが一体化したもの)を大量に買い込みました。
「早く塗りたい!」という流行る気持ちを抑え、窓枠や雨どいを保護していくのですが、これが実は一番の難関。自分では完璧にやったつもりでも、いざ塗り始めると「あ、ここもやってない!」「ここも隙間が!」と次々にボロが出てくる。
プロの塗装職人が「塗装の良し悪しは、養生(マスキング)で決まる」と言う理由が、身に染みてわかりました。まさに、基礎をおろそかにする者に、美学は宿らないのです。
🎨 イエローとブラウンの魔法。家が明るくなった!
選んだ色は、上品で明るい「薄いイエロー」。 そして黒ずんでいた屋根には、そのイエローを引き立てる「チョコレートブラウン」をチョイスしました。
塗装は、下地を塗って終わりではありません。
- 下地(プライマー)
- 中塗り
- 上塗り 本来ならコーティングまで5回ほど塗るのがプロの仕事ですが、一人作業の私は「下地1回+上塗り2回」の3回塗りで勝負しました。
35坪の家に一斗缶2つ。 休日に片道3時間かけて八街へ通い、到着が午後3時を回ることもザラ。それでも「1ヶ月で足場が外れてしまう」という期限があるため、のんびりはしていられません。
💡 夜の八街に現れた「謎のヘッドライト男」
日が暮れても、作業は終わりません。 頭に強力なLEDヘッドライトを装着し、夜の9時過ぎまでひたすら壁を塗り続けました。
静かな八街の住宅街。 闇夜に浮かび上がるイエローの壁と、そこを動き回る謎の光……。近所の人から見れば、さぞかし奇妙で怪しい光景だったことでしょう(笑)。でも、一塗りごとに家の価値が1円、2円と上がっていくような感覚があって、楽しくて仕方がなかったのです。
足場の契約期間である1か月が終了し、なんとか作業を終えた――そう思っていた。
ところが、解体に来た足場業者から一本の電話が入る。
「まだ作業が終わっていないようですが、足場を外してしまって大丈夫でしょうか?」
私は答えるしかなかった。
「いえ、作業は終わっています。……仕上がりが良くないのは承知していますが。」
プロの目から見れば、まさに落第点の出来だった。
塗り終わった後、近所の方々から「見違えるほど綺麗になったね!」「明るくなった!」と声をかけられた時の喜びは、何物にも代えがたいものでした。


街を歩いていて見かける塗装職人さんの鮮やかな手さばき。
自分でやってみたからこそ、その凄さが骨身に沁みました。
「職人さんは、伊達じゃない」。
そんなリスペクトを胸に、家はついに新しい命を吹き込まれ、
大きく呼吸を始めたのです。
(第22話へ続く)


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