第16話  道路の権利交渉、元の所有者を訪ねる、「スーツを着ない営業マン」

八街再生ストーリー

道路は他人様のもの

以前にも触れたが、この家は競売物件だったとはいえ、すべてがまとめて競売にかけられていたわけではなかった。
抵当権がついていたのは、家が建っている土地と建物だけで、同じ所有者名義だった前面道路は、なぜか競売対象から外れていたのである。

その結果、土地と建物は私の所有になった一方で、家の前の道路だけは元の所有者のまま、という少し厄介な状態が残った。

結局、井戸の件、そして道路の件では、もともとの所有者に連絡を取らざるを得ない状態になった。

そこで私は、例のアロハシャツを着た怪しげなコンサルタントに連絡を取った。
この人は、元の所有者にも接触していたので、連絡先を知っていたのである。

本当は、このコンサルタントにそのまま動いてほしかった。
ところが、向こうとしては、もう私から大した金は取れないと踏んだのだろう。
「それは自分でやってください」
という感じで、結局、連絡先だけ教えられた。

祈る思いの手紙

仕方がないので、私はまず手紙を出すことにした。

しかも、その手紙には井戸の件だけでなく、道路の所有権の話も書いた。
この家は、道路の所有権も整理されていなかったのである。

「このままお持ちになっていても、毎年固定資産税の請求がいきます。
登記費用はこちらで負担しますので、道路の所有権をこちらに移していただけませんか」

そんな内容を書いた。

正直、祈るような気持ちだった。
相手が悪い人なら、それを逆手に取って、また金を請求してくる可能性だってあるからだ。

数日後、返事が来た。
そして、その内容は意外なものだった。

なんと、道路の所有権は
「いらないので移して構わない」
と言う。
さらに井戸についても、
「別に使ってもらって構わない」
と言うのである。

私は少し反省した。

例の植木だらけの敷地の印象もあったし、道路向かいのおじさんからは自然信仰が強いような話も聞いていた。
だから、勝手に「かなり偏屈な人かもしれない」と身構えていたのだ。
だが、実際にはまったく違った。

ありがたく道路の所有権移転を進めることにして、手配をした。
ただ、登記費用はそれなりにかかった。
正確にはうろ覚えだが、たしか27万円くらいだったと思う。
その出費は痛かった。
とはいえ、変にごねられるよりは、はるかにましだった。

だが、問題はやはり井戸だった。

たしかに、「使っていい」とは言われた。
しかし、それは今の所有者がそう言っているだけの話である。
将来、所有者が変わるかもしれないし、相続が起きるかもしれない。
そのときまで、その約束が有効とは限らない。

やはり、自分の敷地内に井戸を掘り直すしかない。

そう腹を決めて、井戸掘りの業者に連絡をした。
調べてみると、近所にちょうどそういう業者があった。
しかも話を聞くと、もともと隣の主屋の井戸を掘ったのも、その会社だという。
つまり、この土地の地盤や勝手をすでに知っている業者だった。

それは助かった。

井戸、50万也

話によると、このあたりでは50メートルくらい掘らないと水が出ないらしかった。
そして費用は、50万円。

これもまた痛かった。
おそらく、この再生プロジェクトの中で、一番大きな出費がこの井戸工事だったと思う。

だが、これはもう必要経費である。
逃げようがない。

実は最初、例によってYouTubeで
「井戸って、自分で掘れないのかな」
と思って調べてみた。

すると、さすがYouTubeである。
本当に何でもある。
井戸を自分で掘る動画まで出てきた。

ただ、見ていると、どうやら素人が自力で掘れるのはせいぜい5メートルくらいが限界らしい。
まあ、そりゃそうだ。
そんな大がかりな機械を持っているわけでもないし、50メートルも掘れるはずがない。

結局、これは最初から答えが決まっていたのだ。

「もう、プロに頼むしかない」

そう腹をくくって、私は50万円の出費を受け入れた。

その話が前話、第15話である。

だが、このときの私は、まだ知らなかった。
井戸を掘れば終わり、ではなかったのである。
この家の“インフラ権利の迷宮”は、ここから本格的に始まっていくことになる。

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