【第2部:物理の死闘・外構編(7〜13話)】第7話:空から降る土と、不穏な「投資仲間」の影

八街再生ストーリー

私は屋根の上にいた。

片手にはスコップ、目には100均で買った花粉症用メガネ。

八街の春をなめてはいけない。

ここはピーナッツ栽培が盛んだが、その土質は驚くほど粒子が細かい。

風が吹けば、5メートル先も見えないほどの「土ぼこり」が舞い上がる。

作業を始めてわずか1分。

鏡を見ずともわかる。

今の自分は、煙突掃除に失敗して煤(すす)だらけになったサンタクロースのような顔をしているはずだ。

雨どいに眠る「堆積物」

この家が競売にかけられるまでの長い年月、手入れをされた形跡は微塵もなかった。

屋根に登り、雨どいの中を覗き込んで絶句した。

土が、溢れんばかりに詰まっている。

風で運ばれたピーナッツ畑の土が、雨のたびに固まり、今や立派な「地層」と化していた。

「これじゃ、水が流れるわけがない……」私はスコップを突き立て、その重い土を掘り返し始めた。

予想を遥かに超える土の量に、私はふと思いついた。

「隣の空き地に放り投げればいいか。後で回収すればいいだろう」

軽い気持ちで、屋根の上から隣の敷地へポイポイと土を投げ捨てた。

あらかた掃除を終え、ホースで水を流すと、「ゴォーッ」と小気味よい音が響く。

「よし、雨どいが生き返った」一件落着。その日は心地よい達成感とともに八街を後にした。

投げ捨てた土の回収をすっかり忘れて・・・

玄関に挟まれた「一枚の紙」

翌週、先週のあの土を片づけなければと考えながら現場に到着した。

すると、玄関ドアの隙間に小さな紙切れが挟まっていた。

そこには見覚えのない電話番号と、「連絡ください」という短い一筆。

嫌な予感が胸をかすめる。

意を決して電話をかけると、相手は隣の敷地の所有者だった。

「あ、こんにちは。実は私、お隣の物件を買った者でして……」

相手の声は一見穏やかだった。

彼は現役のサラリーマンでありながら、投資用として隣の空き家を購入した「サラリーマン大家」だという。

「いやあ、同じ投資仲間ですね!」 親しげに話しかけてくる彼に、私は違和感を覚えた。

私は投資目的というより、独立のための「真剣勝負の実験」としてここにいる。

彼とは見ている景色が違う気がした。

そして、本題が切り出された。

「……あの、もしかして、うちに土、捨てました?」心臓が跳ねた。

なんともタイミングがわるい。
ほとんど顔を合わせることの無かった隣人が、たまたまこの日はいたのだ。

彼はしっかり見ていた。

「あ、すぐに片付けます」トラブルは避けたかった。

大らかそうな口調の裏に潜む、妙に細かい神経。

私は「この人とは深入りしちゃいけない」と直感した。

狂乱の競売市場

その後、作業中に彼と何度か顔を合わせ、言葉を交わした。

近年の競売市場は過熱し、彼のような一般のサラリーマンがこぞって参入している。

だが、彼と話すたびに、どこか「自分さえ良ければいい」という独善的な空気を感じ、私は不信感を募らせていった。

ただ、一つだけ収穫があった。

彼の買った物件は、深刻な雨漏りに見舞われていたらしい。

「雨漏り修理、30万くらいで直るみたいですよ」私のパナホームには幸い雨漏りはなかったが、その相場観を聞いて少しだけ安堵したのを覚えている。

インフラも、隣人も、そして市場も……競売という世界は、一筋縄ではいかないプレイヤーばかりが集まる場所なのだ。

泥だらけの顔を拭いながら、私は次の工程へと目を向けた。

いよいよ、この家の運命を変える「駐車場造成」が始まる。

第8話:なぜ「西側」だったのか? 駐車場の運命を決めた決断

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