第14話 井戸掘り地獄
― 地面を突いても出てくるのは、ため息ばかり ―
この家は、前にも書いた通り、水道ではなく井戸だった。
つまり、公営水道が来ていない家だったのである。
最初、私はいつものように水道メーターを探した。
ところが、いくら見ても見当たらない。
それなのに、ちゃんと水は出る。
「おかしいな。この水、どこから出てるんだ?」
そんな状態だった。
周囲をよく見回してみると、まず目についたのが、大きな水のタンクだった。
最初は、雨水でも溜めておくタンクなのかと思った。
だが、どうも様子がおかしい。
というのも、水は外の水栓からしか出てこなかったのだ。
台所も、トイレも、水が出ない。
だから私は、元栓はどこにあるのかと思って、水道メーターも含めて探していたのである。
しかし、やはり見当たらない。
一方で、家の外にある、いわゆる外水栓――洗車などに使う蛇口――をひねると、そこだけは水が出る。
そして不思議なことに、その水を出すと、隣の主屋の敷地にある古びたプラスチックの箱から
ウィーン……
という音がするのである。
水を止めると、その音も止まる。

「何だこれ?」
と思って、その箱を見てみると、ただ上からかぶせてあるだけの簡単なカバーだった。
外してみると、中からポンプが現れた。
その瞬間、私はようやく理解した。
「ああ、この家は水道ではなく井戸を使っているのか・・・」
つまり、この家で使っていた水は井戸水だったのである。
だが、そうなるとまた疑問が出てくる。
外水栓では水が出るのに、なぜ台所では出ないのか。
もう一度見回してみて、さっき見つけた台所脇の屋外にある、大きな水タンクの意味がようやくわかった。
どうやらこの家は、隣の主屋側からいったん大きなタンクに水を溜め、さらにそこから別のポンプ
で台所などへ水を送る仕組みになっていたらしい。
そして、その台所側のポンプが壊れていたのである。
だから、外水栓では水が出ても、台所やトイレでは水が出なかったのだ。
「うわあ、これは困ったな……」
そう思った。
もちろん、その壊れたポンプを直すという手もある。
だが、そもそも水の出どころは隣の敷地だ。
そこから引っ張ってきている以上、仮にポンプを直しても根本的な問題は何も解決しない。
それでも、まずは生活インフラとして、水を復旧させなければ始まらない。
そこで私は、いったん台所近くの壊れたポンプとタンクのことは後回しにして、
隣のポンプから来ている水を直接台所へつないでしまうことにした。
つまり、水道工事である。
いや、自分でも驚いた。
まさか自分で水道工事までやることになるとは思わなかった。
やったことは単純で、元々壊れたポンプにつながっていた配管に対して、隣の敷地から
外水栓へ来ているパイプを途中で分岐させ、地面の中を這わせて接続したのである。
さて、皆さん、水道工事をやったことはありますか?
――もちろん、ないですよね。私もありませんでした。
ところが、この「ただ水道管をつなぐ」という作業が、とにかく厄介だったのです。
しかも、専用の工具も持っていない。
そこで頼ったのがホームセンター。
探してみると、水道管同士をつなぐための短い継ぎ手が売っているのを見つけ、
これを使うことにしました。
締め付けはプライヤーで代用しました。
実はそれまで、接着剤でくっつけてみたり、パテのようなもので埋めてみたりと、
いろいろ試してはみたのですが――
水圧がかかると、見事に水が漏れてくるんですよね。
まあ、水道水ではないので料金がかかるわけではないのですが、
それでも、チョロチョロと漏れ続ける様子は、見ていて気持ちのいいものではありません。
かくして、隣の井戸水をそのまま台所へ送る形にした。
そして、実際に台所の蛇口をひねって、水が出てきたときは、少し感動してしまった。
さすがに泣きはしなかったが、あの瞬間はかなりうれしかった。
だが、本当の問題はそこではない。
問題は、その水の元が隣の敷地にあるということだった。
これは、不動産の世界ではかなり大きな問題である。
配管が他人の敷地を通っているだけでも、十分に厄介だ。
いわゆる他人管の問題で、売買の際には大きなリスク要因になる。
極端な話、隣の所有者が「ポンプを撤去します」
「もう使わせません」
と言えば、その瞬間にこの家は水が使えない家になる。
「いやあ、参ったな……」
そう思った。
結局これは、時間の問題で隣の所有者に接触しなければならない。
第15話
ついに自分の水が出た
― 八街の地下水が教えてくれたこと ―へ続く


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